「鈴葉、どうして来たの。僕は別れようって言ったはずだけど」
冷たい声色。確実に彼女を傷つける言葉だということは分かっていた。
「どうしてなにも言ってくれなかったの」
彼女はうつむいていた。
「それはお前が心配すると思って……」
「私、心配もさせてもらえないの?」
「いや、そうじゃなくて……」
「私、言ったよね。最期までずっと蓮くんの隣にいるって。忘れたの?」
彼女の瞳はまっすぐに、僕だけを見つめていた。
返す言葉が見つからず、僕は言葉を詰まらせる。苦し紛れに紡がれた言葉。
「それじゃあ……鈴葉、お前が幸せになれない」
「私は蓮くんの隣にいる瞬間が一番幸せなの」
「……」
彼女は思っていた以上に心の強い人だった。
「……僕が悪かった」
僕はこれから何度も迷い続けるだろう。そのたびに彼女は僕を奮い立たせてくれる。
それがどんなに幸せなことなのか身を持って味わった。
それからしばらく談笑した後、彼女が席を立った。
「私、そろそろ帰るね。もうあんな馬鹿なこと言わないでよ? 私の気持ちは変わらないから」
「ごめんな」
「蓮くん、大好きだよ」
彼女は僕に向かって微笑んだ。
彼女の姿が遠ざかっていく。まるでスローモーションの世界だった。気がつけば、僕は鈴葉の腕を掴み、引き寄せていた。奪うように重ねられた唇。自分でも、理解しがたい行動だった。彼女は僕の突然の行動に目を丸くする。当然の反応だ。
直後、お互い顔を真っ赤に染めながら、しばらく目を合わせることができなかった。
「……気をつけて帰れよ、海愛」
「……うん」
僕らの会話はそこで途切れた。