* * *
目を覚ますと、真っ白な世界が僕の視界に広がった。
鼻にまとわりつく薬品の臭い。体中で感じる懐かしさに、朦朧もうろうとしていた意識が一気に覚醒する。
「……蓮、分かる? お母さんよ!」
認識できたのは、ここが病院だということ。母の顏。鈴葉の顏。え、鈴葉?
僕は彼女の存在に反射的に飛び起きる。
カシャンと点滴の管がベッドの枠に触れ、無機質な音を立てた。
鈴葉はこちらを心配そうに見つめていた。
「ちょっと! 大丈夫なの?」
「……どうして、鈴葉が」
クラリと貧血のような眩暈めまいに頭を抱えながら、僕は横目でチラリと彼女を見る。母は未だ生気のない青白い顔色の僕を心配そうに見つめていた。
「急に起きちゃダメ!」
「僕ならもう、大丈夫」
「大丈夫じゃないわよ」
そうやって、何度母の涙を見てきただろう。同じ失敗をして、心配をかけてきただろう。
「母さん……ごめん。でも本当に、大丈夫だから」
思えば、最後に母の笑顔を見たのはいつだっただろう。必死に記憶を遡さかのぼるが、笑顔の記憶は見つからない。出てくるのは、泣いている姿ばかりだった。
当然なのかもしれない。母を追い詰めているのは、いつも僕なのだから。
「でも、もう体が限界なんじゃ……」
「分かってるよ。自分のことだから」
母の姿に僕は困ったように微笑む。
ごめんね母さん。こんな体で生まれてきてしまって。親不孝者の息子で、ごめんなさい。
「蓮……」
「母さん、少し、鈴葉と二人にしてくれる?」
僕の言葉に彼女はピクリと反応する。母は鈴葉に一礼し、入院するために必要な僕の着替えを取りに一度帰宅していった。
残された僕ら。僕は自分の体に取りつけられた無数の管に溜息をついた。血管と骨ばかりが浮き出る細く青白い腕。血管に突き刺さる点滴の管。胸に貼りつけられた心電図がむず痒い。
典型的な病人の体を持つ自分の姿を彼女に見られ、情けなくなった。