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 彼女が観たいと言っていた映画は、流行はやりの恋愛映画だった。

 ある日、大好きだった彼氏に癌がんが見つかる。彼女はそんな彼氏を必死に支え、看病する。

 しかし看病の甲斐もなく、彼氏は死んでしまう。彼女は現実を必死に受け止めようとしながら立ち直っていく。

 映画が終わり、辺りが明るくなった頃、鈴葉に視線を向けると、彼女はハンカチで涙を拭いていた。





「ふふっ……大丈夫?」





 僕は笑いを堪えながら声をかける。





「なっ! なんで笑うの!」





 彼女は途端に頬を赤く染めた。

 誤魔化したのはこれ以上深入りしないためだ。



 きっと僕も、この映画の男のように彼女を置いて先に死を迎える。彼女はその瞬間を迎えた時、強い心で恋人を失った悲しみを乗り越えなければならない。





「僕は心配してたんだけど」





「もー、からかわないでよー……」





「ごめんな」





「蓮のアホ」





 面白くない、という表情を浮かべながら、鈴葉は僕の腕にしがみついた。





「鈴葉?」





 彼女の突然の行動に戸惑いながら、僕は首を傾げる。





「蓮くんには、私がいるからね」





 彼女の言葉に、胸が締めつけられる。

 鈴葉も僕と同じことを考えていたのだろうか。

 僕は優しく彼女の髪を撫でた。