* * *
「櫻井さーん」
名前を呼ばれ、僕と母が診察室に通される。
生まれた時からお世話になっているかかりつけの病院は、何度来ても懐かしく感じる。
消毒液の臭いに真っ白な吹き抜けの天井。
何度ここに足を運んだのだろうか。
診察室へ通されると、そこには優しく微笑む年配の医師が座っていた。
生まれた時からお世話になっている僕の担当医、田辺たなべ先生。田辺先生は僕の姿を見ると目を細め、優しく笑った。
「蓮くん、また少し大きくなったねぇ」
「おかげさまで」
僕は軽く頭を下げ、診察室の椅子に腰を下ろす。
「で? 今日はどうしたのかな?」
「血を吐いたんです」
僕の背後から言葉を発したのは母だ。
「血を? そうですか……」
田辺先生は母の言葉を聞くと、カルテを眺める。唸り声を上げながら、田辺先生は重い口を開いた。
「定期健診の結果と今回の結果は変わりないしな……。けどこれ以上薬を増やすことは良くないから現状維持で様子を見よう。苦しいだろう、ごめんね」
「いえ、ありがとうございました」
田辺先生に頭を下げ、僕は久しぶりの診察を終えた。薬を貰い、母との帰り道。
「母さん、僕……厄介者じゃない?」
母の歩幅に歩く速度を合わせながら、僕は質問する。母が動揺している様子は感じられなかった。
「そんなことないわよ」
「ふーん……」
僕と母の会話はそれが最後だった。家に着くまでなにも話さず、帰宅した。
時折僕を襲う鈍い胸の痛み。生まれた時からずっと一緒に生きてきた、痛み。
ねぇ神様。もし本当に神様がいるのなら、生と共にこの試練を与えたのはなぜですか。僕は、泣いても許されますか。ツラくて苦しくて、本当は今すぐにでも死んでしまいたい。楽になりたい。それでも、生きる意味はあるのですか。ねぇ、神様。僕の苦痛はいつになったら消えるのですか。ねぇ、神様。いるなら教えてよ。