*   *   *







「うっ……痛い」





 僕は全身の激痛で目を覚ました。ひんやりと冷えた汗が服を濡らす。

 そしてもう一つ。手の平のヌルリとした感触に視線を向け、僕は悲鳴を上げた。





「ひい! ……血が」





 吐血していた。目が覚めていくにつれ、口内に広がる鉄の味。真っ白だったシーツは血液の酸化で赤茶色に染まっていた。

 僕は一目散に階段を降り、洗面台の蛇口をひねった。

 水がヌルリとした血液を洗い流していく。





「おちない……」





 酸化で変色した血液はなかなか落ちてはくれなかった。

 必死に両手を洗い流していると、背後でドサリと物音がした。





「……母さん」





 振り向くと、洗濯物を落とした母の姿が目に入った。





「血、吐いたの?」





 母は冷静だった。手際よくこびりついた血液を落とし、汚れた衣服を処理していく。

 僕が吐血したのは、今回で三度目だった。





「蓮、病院行こう」





「うん」





 母の提案を拒否することなく、僕は素直に首を縦に振った。