*   *   *





「なんかあった?」





「え?」





 難しい顔をしていたのかもしれない。鈴葉が僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。珈琲を啜りながら、彼女は注文したケーキにフォークを突き刺す。





「なんか、暗い顏してたから」





 放課後の喫茶店で、僕らは向かい合っていた。





「そうか?」





「うん」





 僕は考えていた。

 果たして彼女は、莎奈匯の話を信じてくれるだろうか。同じような悩みを持つ友達だと、割りきってくれるだろうか。どちらにせよ、このまま黙っていて誤解される方が厄介だ。

 そう考えた僕は、彼女に全てを打ち明けることにした。





「なあ、鈴葉」





「ん? なあに?」





 一呼吸置き、声をかけると、彼女は幸せそうにケーキを頬張りながらこちらを向いた。





「あのさ、僕の後輩に莎奈匯って奴がいるんだけど」





「女の子?」





 やはり気になるのだろう。彼女は口の中のケーキをのみ込み、真剣な表情で僕の言葉に耳を傾けていた。





「そうだけど、ただの後輩だから気にするなよ」





「私、そんなこと思ってないもん」





「顔に出てる」





 僕の指摘に、彼女は「もうっ」と口を尖らせた。





「そいつ、心臓病で、もう長くないんだ」





 彼女は僕の言葉を静かに聞いていた。そして、ゆっくりと口を開く。





「蓮くんと似てるんだね」





「うん」





 彼女は眉を下げて笑った。それは困った時の笑い方。





「その子には、蓮くんが必要なのかもね」





「僕が必要?」





 彼女の言葉に僕は首を傾げた。