「蓮って意外と面倒見いいよね」
「意外と、は余計」
カリカリと芯を走らせながら、僕はひたすらに問題を解いてゆく。
「ごめんってば」
僕が座る机の背後にあるソファに腰を下ろしながら、莎奈匯は笑い声を上げた。バキッとシャープペンシルの芯が折れた時、背後の莎奈匯が大人しいことに気がついた。
不審に思い、振り向くと、苦しそうな莎奈匯の姿が見えた。肩で息をしながら青白い顔を覗かせる彼女。初めて見る姿だった。
「はぁっ……はぁっ……」
苦痛に表情を歪める莎奈匯。咄嗟とっさに発作なのだと思った。
「おい、莎奈匯! しっかりしろ!」
人を呼ぼうと僕は立ち上がる。椅子が倒れることなど気にせず、かけ出そうとする僕の手を掴んだのは莎奈匯だった。
「……待って」
「でもっ……」
簡単に振りほどけそうな弱々しい力。莎奈匯は呼吸を荒げながら必死に僕の腕にしがみついていた。
「誰も、呼ばないでっ……わたしなら、大丈夫だから……」
大丈夫。そう言いながら莎奈匯は笑顔を見せた。
歪む笑顔に僕の胸が締めつけられる。
苦しいはずなのに、必死に笑顔を見せる莎奈匯。その瞳からは生理的な涙が流れていた。
「いつものこと……だから……ほら、わたし心臓に病気があるじゃない?こんな発作、すぐ治まるから」
「もう喋るな、悪化するから」
僕は莎奈匯の横に腰を下ろし、発作が少しでも和やわらぐように背中を擦っていた。
人肌に安心したのか、彼女は「もう大丈夫」と微笑み、薬をのんでベッドに横になりたいと言った。
「ごめんね」
莎奈匯をベッドへ誘導すると、彼女は困ったように苦笑いを見せた。
莎奈匯の明るさは、精一杯の強がりなのだ。
それは僕にとっての勉強と似ていた。自分を必死に守ろうとするその姿はまるで鏡を見ているようで胸を締めつけられる。