* * *
久しぶりに登校すると、変わらない日常がそこにあった。
「おはよう」
今日は二学期の始業式だ。夏休みはアッという間に過ぎ去り、再び学校生活が始まろうとしている。
「おはよ!」
「寄るな。暑苦しい」
「うわ、酷い!」
那音も相変わらずだ。少しだけ短くなった髪が、奴の印象を幼くした。
「そういえばお前、海愛ちゃんとつき合い始めたんだってな! 智淮から聞いた」
ピクリと那音の言葉に反応する。彼女、という実感が、まだ自分の中には浸透していなかった。
「どうだっていいだろ」
「そんなに照れんなよ! あんまり可愛げねーと、愛想尽かされちゃうぜ? それともあれなの? 海愛ちゃんの前だとデレデレだとか?」
僕の色恋沙汰に那音は浮足立っていた。
「違うって言ってるだろ!」
「あら、珍しい」
那音の執拗しつような追及に堪えかね、僕は声を荒げた。
血圧が上がるような行動は禁止。そんな言葉を思い出す。
「マジなんだな、お前がなぁ……」
那音は珍しいものを見るような目で僕をジロリと見つめ、フッと鼻で笑った。
首を傾げる僕に、那音は「頑張れよ」とだけ言い残し、自分の席へと戻っていった。
僕の珍しい怒声に、クラス中から視線が集まっていた。しばらくじっとしていたが、ひそひそと聞こえてくる声に堪えきれなくなり、席を立った。
向かう先は保健室。僕が途中退席することは珍しいことではなく、気にする人は誰もいなかった。