「キミはそうやって、彼女を殴るのかい?」





 少年は僕に尋ねながら、コツンと踵かかとを鳴らした。

 僕は目の前の自分自身を険しい表情で睨みつけた。





「そんな未来は絶対にありえない!」





 少年に怒鳴り声を上げる僕は体中に大量の汗をかいていた。

 ガタガタと震え出す手足。なにがどうなっているのか、理解ができなかった。





「キミが、堪えられるはずがないんだ」





 目の前の少年は途端に胸を押さえ、苦しみだした。

 その光景を僕は何度も経験している。痛くて苦しい、僕の身体の悲鳴。





「僕は、絶対に堪えてみせる」





 次第に生気を失っていく目の前の自分。





「ボクは無理だと思う。あの子を想う気持ちが本物なら、やってみればいい。茨の道を、キミに歩む覚悟があるのなら」





 血の気が引き、青ざめた表情を歪ませる少年は、ポタリと涙を流した。同時に、少年の体から力が抜け、倒れ込んでしまった。

 僕は咄嗟とっさに助けようとしたが、体が鉛のように重く、動くことは叶わなかった。

 悔しさで、奥歯を噛み締める。





「僕は絶対に堪えてみせる」





 次第に薄れゆく意識の中、僕は少年が最後に言った言葉の意味を考えていた。





『茨の道を、君に歩む覚悟があるのなら』





 その答えを求められないまま、僕の意識はそこで途絶えた。



 ――――君はなにを伝えたかったの?