「でも、ごめんなさい。つき合うとかは、できません」
泣き出したい気分だった。
僕の言葉を聞いた瞬間、彼女の長い髪が揺れた。チリン、と携帯電話につけたキーホルダーが足に当たり、音を立てる。
「どうして?」
君が好きだから。
喉元まで出かかった本音を今度はのみ込み、僕は汗ばむ拳を握り締めた。
好きだから、生きる希望を与えてくれた、大切な人だから。本当に幸せになってほしい。
「僕ね、もうすぐ死ぬんだ」
「し……ぬ?」
僕の言葉に彼女は顔を強張らせた。
「言うつもりはなかったけど、僕は健康な人が本当は憎くてたまらない」
僕は大袈裟に溜息をつく。
どうせなら嫌われてしまった方がいい。もう二度と会わないように、未練が残らないように。
「蓮くん、私のことが嫌いなら正直に言って。私、そういう冗談は嫌い」
彼女の充血した瞳が僕を捉とらえる。目を、逸らせなかった。
「嘘なんてついてない。君は僕みたいな男を好きになっちゃいけない」
鼻の奥がツンとする。呼吸が苦しくなって、やるせない気持ちが襲う。今にも流れ出しそうな涙を堪える。
「それでも、一緒にいたいの」
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。