「ねぇ蓮くん」
「なに?」
「蓮くん、好きな人いる?」
彼女の言葉に僕は口に含んだ珈琲を吹き出しそうになった。
熱々の珈琲が喉を通り胃に染み渡る。
僕は一呼吸置き、穏やかな声で言った。
「いないよ」
それは彼女にとっては他愛のない質問だったのかもしれない。それでも今の僕にとってはなにより衝撃的な質問だった。
「私、蓮くんが好きだよ」
それより衝撃的な言葉がすぐに彼女の口から発せられるとは、夢にも思ってみなかったけれど。
「え……え!」
驚いて大きな声を上げたことを許してほしい。僕は先ほど好きだと気持ちを肯定した相手に、突然好きだと言われてしまったのだから。
「私ね、今日それを言おうと思って来たの。嘘ついてごめん。改めて言うね。櫻井蓮くんが好きです」
強気に言葉を紡いでいるが、よく見ると彼女は耳まで赤く染まっていた。体も震えている。
しばらくの沈黙の後、僕の口は言ってはならない言葉を紡いだ。
「僕も……好きです」
しまった、と慌てて口を塞いだ時には、手遅れだった。
僕は頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしてしまった。その言葉に嘘はなかったが、絶対に伝えてはならない気持ちを伝えてしまった。
鈴葉を見ると、状況がのみ込めていないような表情をしていた。今さら撤回などできない。
僕は意を決し、鈴葉に全てを打ち明けることを決めた。その行いがたとえこの場で彼女を傷つける結果になったとしても、僕は考えを変えるつもりはなかった。
彼女がこの後の人生を僕と一緒に歩むより、よほどいいと考えたからだ。