「ここが蓮くんの家? 大きい!」





 そう言って、彼女は笑った。僕の表情筋は相変わらず彼女の前で仕事を放棄し、眉を下げることしかできなかった。

 嫌な気分にさせてしまったか、と心配しながら彼女に視線を向ける。鈴葉は変わらず笑顔だ。僕はホッと胸を撫で下ろした。

 自宅に到着すると緊張しながら彼女を招き入れた。





「どうぞ」





「おじゃまします」





 女の子が僕の家にいる。何度考えても不思議な違和感があった。





「ここが蓮くんの部屋? 大きい!」





「鈴葉……それさっきと同じ台詞せりふ」





 僕の言葉に彼女は微笑んだ。





「いいの!」





 愛くるしい笑顔。彼女の笑顔に僕の胸がざわつく。

 本当は初めから気づいていた。認めたくないという思いが無意識に僕の気持ちを否定していた。

 だが、もうこれ以上、誤ご魔ま化かすことはできない。進んだ先に待っているのは、暗い未来だというのに。それでも。



 僕は、君が好きだ。



 彼女を見るだけで胸が高鳴り、苦しくなる。笑顔を見つめると、どうしようもなく心がざわついて、目が合わせられなくなる。このままずっと彼女の隣にいられたら、どんなに幸せなのだろうか。これが、恋なのか。



 浮かれた気持ちのまま、明るい未来ばかりが浮かんでくる。

 この恋を成就させること。それは僕にとってプラスでも、彼女にとってはマイナスになるだけだというのに。

 好きだから一緒にいたい。そんな考えは、僕のエゴでしかないというのに。



 好きになってはいけない。この気持ちを肯定してはいけない。僕は彼女よりずっと早く死を迎える。これは変わらない未来。僕が彼女を好きになっても、悲しませる結果にしかならないのだ。

 僕には鈴葉を幸せにすることはできない。

 彼女のために珈琲を注ぎながら、僕はそんなことを考えていた。

 部屋に戻り、彼女に珈琲を渡すと、声をかけられた。