【海愛です。突然ごめんね。蓮くん頭いいって聞いたからお願いなんだけど、そろそろ夏休みに入るでしょ? 勉強、教えてもらえないかな?】





 僕は迷わず返信した。





【いいよ。夏休みに僕の家で勉強しよう】





 しばらく返信が途絶え、僕は首を傾げながら携帯電話を再びベッドに放り投げた。

 翌朝、鈴葉から「お願いします」と返信が届いていた。

 後日、那音にこの話をすると、溜息をつかれた。どうして那音が溜息をついたのか、僕には分からなかった。







*   *   *





 長かった一学期が終わり、終業式を迎えた。

 それから一週間後、僕の携帯電話に鈴葉からメールが届いていた。





【海愛です! 前言ってた夏休みの約束って覚えてる? 勉強教えてほしいなって……今日の午後って空いてる?】





 時刻は午前十時。僕はすぐに返信した。





【空いてる。十二時に、いつもの公園で待ってる】





 鈴葉に返信すると、身支度を始める。

 僕は十一時三十分を過ぎた頃、家を出た。携帯電話をポケットに詰め込み、彼女の元へと走った。

 約束の場所で待っていると数分後、彼女が姿を現した。淡い水色のワンピースが眩しい。





「鈴葉、こっち」





 僕の姿を探す鈴葉。声をかけると、彼女は満面の笑みを浮かべてかけ寄ってきた。





「蓮くん、久しぶり!」





 綺麗な栗色の髪が風に揺れる。彼女の姿に僕はしばらく見とれていた。





「どうしたの?」





「なんでもない。い、行こうか」





「うん!」





 不思議な緊張感。女の子と二人きりでいること自体が僕にとっては十分に不思議なことだったが、まして自宅に招き入れるなど、想像がつかなかった。

 自宅に向かう途中、僕たちの間には沈黙が続いた。お互いなにか言おうとするものの、何度も不発に終わる。ぎこちない雰囲気は自宅に着くまで続いた。