「僕は体調不良」
フラリと視界が歪む。僕は頭を抱えて、布団に潜り込んだ。
ベッドの端はしに座っていた莎奈匯の溜息が聞こえる。
「寝るの?」
莎奈匯に同情しているつもりも、仲間意識を持ったわけでもない。彼女と自分は違う。
僕は莎奈匯に返事をすることなく、そのまま揺れる視界の中で眠りに落ちていった。
僕が寝息をたて始めた頃、莎奈匯は自分のベッドに戻り、激しく咳込せきこんでいた。
「ゴホッ……ゴホッ」
ズキズキと脈と同調して襲ってくる規則的な痛み。呼吸がままならず、生理的な涙があふれ出す。莎奈匯は一人で苦痛に堪えた。
後に聞いた話。莎奈匯は心臓病を患っていた。彼女は僕が話を聞いてくれたこと、受け入れてくれたことがきっかけで友達になってほしいと頼んできた。
数少ない、悩みを共有できるかもしれない相手。次第に心を許していった僕が彼女を莎奈匯と呼ぶようになった頃、僕も彼女を友達と認めるようになった。
莎奈匯は僕と同じく病気のことを除けば、普通の女の子だった。思ったことを口に出すところは彼女の人柄をよく表し、陰口も言った。しかしそれは人間なら普通のことであり、おかしいとは思わなかった。
僕には鈴葉の方がよほど不思議だった。彼女はいつも笑顔を絶やさず、素直だ。不思議なほどに純粋な女の子だった。彼女のことを考えると、いつも胸が苦しくなる。
僕はその感情の名前をまだ知らない。