*   *   *







 妻を先に行かせ、櫻井の墓前に一人残った俺は、墓の前で深く頭を下げた。

 それは、奴への謝罪と礼。言葉だけでは言い表せない感情が、俺の中で生まれていた。





「今まで、本当にごめんな……できれば、生きてる時のお前に直接言いたかったよ」





 後悔の念が、俺の心を埋める。





「これからは、俺がお前の分まで海愛ちゃんと優を守るから……だからお前は、安心して眠れよな」





 それだけ告げると、俺は車へと歩き出す。

 その時、目を開けられないほどの強風が吹き、俺は思わず振り返った。言わずもがな、そこに人の姿はない。

 けれど、俺の耳には確かに聞こえていた。





 ――――ありがとう。





 俺にとって永遠のライバルであり、一生忘れることのできない男の声が。



 真っ青な空には、桜の花びらが舞っていた。









【END】