* * *
「小学校入学おめでとう、優」
「よかったなあ、優! おじいちゃんにランドセル買ってもらえて」
「うん!」
四月、優は無事に小学校入学を果たした。小さな体にまだ不釣り合いな、新品の黒いランドセルは、私の父が用意してくれたものだ。
入学式を済ませたその足で、私たちはとある場所に向かって車を走らせていた。
「晴れ着のままでいいのかな……」
「優の祝いなんだ。あいつも許してくれるさ」
数十分後、車が停車したのは、櫻井家の墓がある墓地。ランドセルを背負ったまま、優は車から降りるなり、走り出した。
「転ばないでよー」
「大丈夫!」
近くに桜の樹が植えられているこの場所は、春になると毎年一面が桃色に染まる。この地に蓮は骨を埋めている。
墓前で手を合わせ、私は蓮に報告をした。
「蓮……今日ね、優が小学生になったんだよ。見える? 優のランドセル姿」
墓に話しかける私の姿を優は不思議そうに見つめる。陸くんは私たちを優しく見守っていた。
「……帰ろっか」
私は大きく深呼吸をし、優と手を繋いで歩き出す。しかし陸くんはその場で静止したまま言った。
「海愛ちゃん。優を連れて先に車に戻ってて」
「え、どうしたの?」
「頼む」
「う、うん……分かった」
夫の言葉に私は直感的になにかを感じ、素直に従うことにした。