「お義母さん、お話があります」
「話って? アナタが私に相談なんて、なにかあったの?」
「実は……あの」
「なに?」
「私、ある人と結婚しようか、迷ってるんです。お義母さんにこんな話をするのはお門かど違いだって分かってます。でも……私の愛した人は櫻井蓮だから……お義母さんに聞いてもらいたくて」
机の上の麦茶に浮かんだ氷が溶け、音が鳴る。
私はお義母さんの返答を待った。お義母さんからしてみれば、なんて図々しい話なのだろうと思う。最低な子だと罵られても仕方ない。身構える私に、お義母さんは言った。
「それを……海愛ちゃんは今までずっと悩んでたのね」
「はい……彼はとてもいい人で、優も懐いています。あの子に父親を与えてあげたいんです。来年、小学生になる前に」
お義母さんは真剣な表情で私を見ていた。ピアノ線のように張り詰めた空気の中、夏の暑さが体を蝕む。背中に汗が伝った。