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今年の春は花粉の飛沫量が多く、来院する患者の多くが花粉症に苦しめられていた。
「今日の患者さんの八割はアレルギー検査で花粉症と出たな。最近の子は大変だ」
「本当ですね。神谷先生も気をつけてくださいね」
「そうだな」
櫻井の死から六年。俺は小児科の医師として開業するまでになった。海愛ちゃんに告白をしてから五年。優は今年で六歳になる。来年はランドセルを背負った小学生だ。
今日もまた、仕事を終えた俺は自宅ではなく、そのまま海愛ちゃんの待つ部屋へ向かった。慣れたように玄関の戸を開けると、待ち構えていたのか優が飛びついてきた。
「おじさん! おかえり!」
「ただいま。いい子にしてたか?」
「うん! 今日ね、優、ママのお手伝いしたんだよ」
「そうか、優はえらいな」
「えへへ」
大袈裟に褒めてやると、優は満面の笑みを浮かべた。
最近の俺は、海愛ちゃんと一緒に櫻井の墓参りに行くことが増えた。優は、実の父親が亡くなったという事実が分かっているのか、いつも真剣な表情で墓前に手を合わせている。
子供は時として、大人でも気がつかないようなことを口にする。行動をする。子供は大人より、よほど敏感なのだ。