「ありがとう、神谷くん。でも……ダメだよ」
「ダメ?」
彼女は優を腕に抱き、櫻井に似た優の柔らかい猫毛を撫でながら苦笑いを浮かべた。
「神谷くんの気持ちは嬉しい。この子にも父親が必要なんだってことは分かってるの。でもね、私……やっぱりまだ蓮を愛してるの。彼を忘れられないの」
そう言って、彼女は目を細め、櫻井と一緒に写った写真を見つめた。
「俺は、いくらでも待つよ。君があいつを忘れられなくても、俺はそれでもいい。写真も指輪も、あいつとの思い出全部持ったままの君でも、俺はかまわない」
俺の言葉に彼女は眉を下げて笑った。
「神谷くん、格好良すぎだよ……ねえ、優」
「俺は本気だよ。海愛ちゃんの決心がつくまで、俺はこれからも君たち親子の力になるから」
カチ、カチと時計の秒針の音が響く。しばらく黙っていた彼女は、俺に向かって苦笑いを浮かべ、言った。
「ありがとう、ごめんね」