「あ、寝ちゃったね。お父さんに抱っこされてるのが分かるのかな?」





「どうだろうな」





 それは、とても幸福な時間だった。親になり、僕を生んだ母の気持ちが少しだけ理解できたように思う。

 生まれたばかりの我が子が長くは生きられないと知った時、母はなにを思っただろう。



 僕の息子がそうなったとしたら?



 きっと耐えられない。

 僕は顔も覚えていない父のことを思い出し、切ない気持ちになった。あの人は、きっと耐えられなかっただけなのだろうと思う。そうでなければ少しの間でも、僕を育ててはくれなかっただろうから。





「海愛……ごめんな」





 そう言って頭を撫でると、海愛は途端に泣き出した。





「やめてよ、そういうの……悲しくなるじゃない」





「うん、ごめん」





「バカ」





 泣きじゃくる海愛の頭を何度も優しく撫でながら僕は謝った。





「ごめん」





 謝ることしか、今の僕にはできなかった。