「すみません先生、熱があるみたいで……」





 静まり返った保健室。辺りを見渡しても、人の姿はない。





「誰もいないのか」





 フラフラと重い足を引きずり、僕はそのまま簡易ベッドへ倒れ込んだ。ひんやりとしたシーツの感触が心地よい。

 具合が悪いと分かってからは都合がいいもので、本当に体が重くなっていた。吐き気を抑えながら額の汗を拭う。

 寝具のスプリングは僕の重みでギシリと音を立てた。



 無音の保健室。次の瞬間。





「……誰かいるの?」





 女の声が聞こえた。誰もいないはずの保健室から、自分以外の声が聞こえたことで、僕は反射的に身を固くする。

 辺りを見渡しても、やはり誰もいない。



 空耳か。





「……よほど体調が悪いんだな」





 気のせいだと言い聞かせ、僕は枕に顔を埋める。

 するとまた声が聞こえた。





「無視? 感じ悪いなぁ」





 今度は空耳などといういいわけは通用しない。確かに聞こえた声。しかしそれがどこから聞こえているのか分からない。

 僕はフラつく体で再び辺りを見渡した。そして、ようやく声の主を見つけた。





「あ」





「やっと気づいてくれた」





 声の主は女の子だった。

 僕が彼女の存在に気がつけなかったのには理由があった。それは僕の寝転んだベッドと隣のベッドを仕切るために取りつけられた薄いカーテン。

 声の主は僕のベッドのもう一つ向こう側に横たわりながら声を発していた。彼女がのそりと体を起こしたことで、ようやく僕は彼女の存在に気づくことができた。

 ゆっくり起き上った声の主は、窓際から差し込む朝日を背景に、僕の前へと姿を現した。