僕が入院してから、海愛は毎日のように病室を訪れるようになった。





「蓮といる時間を一分一秒でも無駄にしたくない」





 そう言った海愛の願いを聞き入れ、僕は無理をしないという約束を海愛と交わしていた。

 日に日に大きくなっていく海愛のお腹。妊娠七か月にはお腹の子が男の子だと判明し、それから二人で子供の名前を考えたりもした。



 幸せな時間はあっという間に過ぎていく。

 海愛が出産のために入院した後、僕は病室に神谷を呼んだ。久しぶりに見た神谷は少し痩せたように思えた。





「よう」





 僕が声をかけると、神谷は軽く頭を下げた。

 目が泳ぎ、こちらを見ようとしない。そんな奴の様子に僕は溜息をつき、重たい体を起こした。





「神谷、今日は頼みごとがあってお前を呼んだんだ」





「俺に?」





 神谷は首を傾げた。

 僕は真剣な表情で言う。





「僕が死んだ後、海愛を頼む」





「え……なに言って……」





 僕は本気だった。神谷の過去を知り、それから長い間、奴を見てきて分かったことがある。神谷は海愛に恋をしていた。だからこそ、奴の背中を押してやれるのは今しかない。

 僕がいなくなった世界で、海愛を支えるのは、こいつかもしれないのだから。



 僕の言葉に神谷は青ざめた。