「先生、ついに限界みたいですね。僕の体」
不思議な気持ちだった。穏やかで満ち足りた感情が心に広がる。
狂ってしまったのではない。僕は死期を悟り、考え出したのだ。最期の時間をどう過ごすのか。海愛に僕がしてあげられることは、あとどれほどあるのだろうと。
「なんだか随分すっきりした顔をしているね。なにかあったのかい?」
田辺先生は手元で資料を見ながら言った。
「言ってませんでしたけど僕、父親になるんです」
「え、そうなのかい!」
僕の言葉に先生の顔が緩む。
「だから……僕は悲しいんです。彼女を一人にしたくない……先生……僕、どんどん欲張りになってる」
心電図の音が静寂に響く。僕は今、確かに生きている。その事実が、僕を最期まで突き動かすのだ。