*   *   *





 目覚めた瞬間に夢だと分かった。見渡す限り白い空間が広がっている。ここがどこなのか、上下左右、東西南北、なにも分からない。

 目の前には、やはり十歳の頃の自分が立っていた。





「久しぶりだね」





「……ここは?」





 僕の言葉を無視し、少年は淡々と語る。





「ボクは僕を救済できただろう?」





「え?」





 少年の言葉に僕は首を傾げた。





「もう終わりにしよう……もう十分、ボクは足掻いたよ」





 そう言って、少年は寂しそうな表情を浮かべながら僕の手を握る。温かい、生きている者の手だった。





「ボクは誰かを傷つけることはない。誰かに殺されることもない。僕は自ら死を選択する」





 大きな瞳からポロポロ涙をこぼしながら、少年は言った。





「ボクは、ずっとキミの中にいたんだよ。ボクはキミの心。本心そのものさ」





 意識は薄れ、僕は現実世界へ戻る。

 目覚めると、見慣れた景色と薬品の臭いが感じられ、僕は深い溜息をついた。

 田辺先生と目が合い、思わず苦笑いを浮かべる。