しかしこのままでは、これから生まれてくる我が子を腕に抱くこともできず、幼い子を抱えた海愛を一人置いて逝ってしまうことになる。幼い子を抱え、女手一つで生きていくことがどれほどツラく、苦しいことなのか僕はよく知っている。

 だからこそ、このまま手を打たず、この世を去ることが僕には許せなかった。幼い頃から決められた運命なら、最期まであがきたい。



 ねえ海愛……君は、そんな僕の決めた最期をどう思う? 泣き虫な君は、きっと泣いてしまうのだろうね。気の済むまで泣いたらいいよ。それで、君の気持ちが少しでも晴れるのならば。



 最期は、笑ってサヨナラしよう。



 かつて君と交わした約束を胸に、僕は今日も生きている。

 海愛の妊娠が判明してから、僕は殴られることを覚悟して海愛の家に出向いた。僕は海愛の父親の姿が目に入るなり、頭を床につけ、謝罪した。海愛との関係を認めてもらったとはいえ、結婚より先に海愛を身重にさせてしまった責任は取らなければいけない。





『すみませんでした。順番が違うと分かっています。なにを言われても僕は反論できません。責任をとらせてください。娘さんを、僕にください』





 殴られる。そう感じた僕の耳に聞こえた言葉。





『私はもう、海愛を君に預けたはずだが?』





『……?』





 僕は驚き、床につけた頭を上げる。