梅雨が明け、季節は夏。当初の予報では冷夏と言われていたが、異常気象のせいか、暑い日が続いていた。

 僕の日常はあまり変わらない。朝から夕方まで働き、自宅に帰る。



 変わったのは心の方だ。海愛の妊娠が判明してから、僕は以前より那音と会話をする機会が増えた。親になる大変さ、喜び。那音はそれらを沢山教えてくれた。

 数年前はこんな未来がやってくるなんて、夢にも思っていなかった。海愛に出会う前の僕は、暗いトンネルの中で希望を見出せずにもがいていた。

 時が経ち、僕は父親になろうとしている。



 生まれてきてよかった。



 僕が人生を振り返り、こうした喜びを感じることができるようになったのは、海愛の存在があってこそだ。

 海愛は妊娠を機に実家に戻り、両親と暮らしている。雨姫さんは大学を卒業後、中学校の教師をしていると聞いた。満ち足りた日々。こんな日常が続くのなら、どんなに幸せだろうか。

 僕は毎日に幸せを感じながら、同時に不安を感じていた。

 それは、僕に残された時間。僕は過去に二度の余命宣告を受けたことがある。



 一度目の余命宣告は、十歳の時。

 二度目の余命宣告は、二十歳の時。

 現在の僕は二十四歳。



 最初の余命宣告から、十四年の歳月が経過していた。僕の体は時間と共に変化している。二十歳を迎えた頃から僕を長年苦しめていた発作は嘘のように激減した。

 それはとても喜ばしいことだったが、考えてみれば不思議なことだった。生きることに精一杯で、自分のことを考える余裕がなかった。だからこそ、今になって悟ってしまった。

 これは、本当の最後だ。人は、死に近づいた時、通常では考えられない行動、現象を引き起こすことがある。



 言わば「生命が最期に魅みせる輝き」