「違う、違うの。蓮、あのね……私ね」
海愛は腹に手を当てながら言った。
「赤ちゃん、できたかもしれない」
静寂が僕らを包む。秒針の音が部屋に大きく響く。海愛は拳を握りしめ、震えていた。
「それは……本当なのか?」
なんと言葉を返すのが正解なのか、僕には分からなかった。
「まだ、確かじゃないけど……多分」
正解が分からないから、本音をそのまま伝えようと決めた。
「生もう」
言葉と共に海愛を抱き締める。海愛は安心したのか、声を上げて泣いた。
「私、生んでいいの?」
僕は身重の海愛を抱き締めながら決意した。
まだ、死ねない。
「生んでも、いいの?」
「僕は、生んでほしい。海愛、これは奇跡だよ」
「うん……ありがとう、蓮……私、幸せだよ」
その後、病院の検査でお腹の子は確かに存在し、三か月だと分かった。守るものが増えた現実を、僕は噛み締めた。