「な、なんだよ突然。頭を下げる理由を教えろ」
僕の質問に神谷が答えることはなかった。「ごめん」と繰り返し頭を何度も下げるだけ。
六月に入ったばかりの夜はまだお世辞にも暖かいとは言えない。今年は特に、冷夏を迎える予報がなされている。身を震わせながら僕は言った。
「理由を聞かなきゃ、僕だって謝罪に応えることができないだろ」
しばらくの沈黙。
「……先生」
神谷は本当に小さな声で言った。
「え?」
「田辺先生に聞いてくれ」
そう言って、神谷は最後にもう一度「ごめん」と謝り去って行った。まるで逃げるかのように。
「お、おい! 神谷!どうしてそこで田辺先生が出てくるんだよ!」
僕の言葉に神谷が答えることはなかった。
「意味分かんねえ……」
僕は混乱する頭を抱え、髪を掻き乱した。