『櫻井、話がある。仕事が終わったら、少し時間をくれ。職員玄関の裏で待ってる』
出勤して朝一番、僕は神谷にそう言われた。
神谷は今も海愛と時々連絡を取り合っているようで、海愛も認めていた。
久しぶりに会った神谷は以前とは印象が変わっていた。
例えるなら……牙を抜かれたライオン。
「一体なにをしようっていうんだ?」
一日の仕事を終え、田辺先生との日課を過ごした僕は帰り支度を始める。私服に袖を通したところで、ふと考えた。
神谷の目的がもし、海愛に危害を加えようとするものなら、その時は容赦なく奴を殴ると決めていた。怪我など気にするものか。
僕は重い足を引きずりながら神谷に指定された場所に向かった。職員玄関の真横に見えるブロック塀に隠れるような場所に神谷は立っていた。その場所は、病院で働くスタッフが利用する野外の喫煙スペースだ。
「よう」
背後から声をかけられた神谷は僕の登場にビクリと肩を跳ねさせる。
神谷は僕の姿を捉えるなり、深々と頭を下げた。
「悪かった」
「え?」
僕は神谷の行動が理解できずに首を傾げた。