「まずは謝ること」





「……え?」





「どんな事情があったとしても、君が罪の意識を感じているのなら、素直に謝りなさい。意地を張り続けていると、もっと後悔することになるよ」





 恩師の言葉は長年凍りついていた俺の心を溶かした。己の黒い感情と初めて対峙し、本当の自分を知ろうとした。

 過去の記憶を思い出す時、俺の体は拒絶反応を起こす。もう痛みを感じることのない手首は燃えるように痛み、ガラス片で皮膚を切り裂いた場所から血が滴る幻覚を見ることもあった。体の傷は癒えたが、心の傷は当時のまま大きな口を開けたままだ。

 俺は震える左手首を押さえ、唇を噛み締める。先生はそんな俺の手を取り、微笑んだ。





「大丈夫。君はもう小さな子供じゃないだろう? 立派に成長して、人を救う立場になった」





 俺の冷たい手に触れる田辺先生の温かい手は、俺の心まで温めてくれるようだった。

 俺はもう、死に逃げ場を求めた小さな子供ではない。両親の愛に飢え、敷かれたレールの上を必死に走ることはもうやめた。



 俺は、自分の意思でここにいる。先生に憧れて目指した医者という職業は、俺が自ら選んだ道。夢。田辺先生と交わした約束。

 田辺先生に向けた眼差しは、輝くものに変わっていた。





「先生……俺、思い出した。先生と交わした約束……忘れてなかったよ」





「私も、忘れたことはなかった……また君と会えて嬉しいよ」





 先生は俺の頭を撫でながら笑った。気恥ずかしくて、俺は先生の手を振り払った。





「先生、子供扱いはやめてください」





「今まで知り合った人は皆、私にとって家族同然なのさ。もちろん君もね」





 そう言って、田辺先生は寂しそうに微笑んだ。