「君たちになにがあったのかは聞かないよ。けれど、これだけは知ってほしい」
田辺先生は言った。
「あの子は、君の思っているような子ではないよ」
「……そんな」
絶望した。俺が奴に抱いていた敵意は、お門違いのものだった。初めから、間違えていたのだ。
俺は頭を抱え、項垂うなだれた。
運命を分けた中学受験の結果発表。あいつは 櫻井は、重い運命を抱えてあの場にいた。俺は、勘違いをしていただけだったのだ。
あいつはなにも悪くない。それなのに、俺は自分の失敗を人のせいにして、責任を逃れようとした。自業自得だ。
「私は今も昔も、櫻井蓮くんの主治医だ」
先生の言葉に目の前が真っ暗になった。
「先生……俺、どうしよう……あいつにとんでもないことをした」
額に汗を浮かべ、目を泳がせる俺の姿に田辺先生はおもむろに椅子から立ち上がる。白衣のポケットをまさぐり、取り出した小銭で先生は缶珈琲を買った。温かなそれを俺に手渡し、先生は笑顔で言った。