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お義父さんと和解した後、僕は海愛と仲直りをした。神谷の件は未だ決着のつかないままだったが、今のところ目立った動きはない。
季節は移り、大学三年生の秋。久しぶりに那音から電話があった。
「もしもし那音? どうした?」
家が近いとはいえ、学校が違えば会う機会も激減する。こうして会話をしたのも何か月ぶりだろうか。
那音は「怒るなよ」と前置きをして、言った。
「あのな、オレ……大学辞める」
「え……?」
あと一年もすれば卒業だというのに、どうしてこのタイミングで大学を辞めなければいけないのだろう。
僕は首を傾げながら那音の言葉を聞いていた。
「智淮の家を手伝おうと思って。オレ、結婚しようと思うんだ」
「彼女の実家、居酒屋だっけ? でも、結婚って……彼女になにかあったのか」
智淮さんの実家は古めかしい雰囲気が人気の居酒屋を営んでいる。僕も何度かお邪魔した。
智淮さんの家を手伝わなければいけない理由が那音にできたのだろう。結婚となると、いよいよ現実味を帯びてくる。