薄暗い照明が揺れる落ち着いた雰囲気の店内。一杯目のビールをちびちびと口にしながら僕は隣に座る人物の顔色をうかがっていた。
「蓮くん」
「は、はい」
「突然こんな場所に連れてきて、申しわけないね」
「い、いえ! とんでもないです」
僕の隣に座っていたのは、海愛の父親。彼の行きつけの酒場で肩を並べながら、短い会話が続いていた。
なぜこのような状況になったのか、緊張であまり覚えていない。確かなのは、大学の帰り道、一人で歩いていたところに声をかけられた。それだけ。
僕はこれからなにを言われるのだろう。不安と緊張で喉がカラカラだ。
海愛の父親は生ビールをグビッと一気にのみ干し、深い溜息をついた。
「海愛とは……最近どうなんだい」
僕は驚き咳込んだ。
「か、変わりないですよ」
「……そうか、よかった」
うまくいっていない、とは言えなかった。