追い詰められた俺が、愛を確かめたい一心でとった行動。

 俺は虚ろな瞳で近くにあったガラスの置物を叩き割り、鋭利な先端を手首に当てた。



 場合によっては死んでもいい。その方が楽なのかもしれない。



 様々な感情が頭の中で入り混じっていた。

 幼い、薄い皮膚は、簡単に鋭利なガラス片の侵入を許した。赤黒い液体が、ポタポタと手首から滴り落ちて絨毯を赤く染めていく。貧血で眩暈を起こしながら傷口を広げた。次第に流れる血液の量が増える。

 満足だった。この赤は生きている証拠だ。俺は生きている。その事実に安心し、そのまま貧血で意識を失った。



 ああ、死ぬのか。これで良かったんだ。



 死ねたと思った。しかし、俺は再び目を覚ましてしまった。





「……うう」





 体が鉛のように重く、起き上がれない。見えるのは白い天井のみ。近くにいた看護師らしき女性がこちらに気がつき、声を上げた。





「神谷くん!目が覚めたのね! 待っててね、先生呼んでくるから!」





 看護師は医師を呼びに走り去った。数分後、優しそうな医師が俺の前に現れた。





「初めまして、神谷陸くん。私は田辺と言います」





 田辺と名乗った先生は、優しく微笑みながら俺の手を握った。

「出血も酷くて……もう少しで、本当に危なかったんだよ」

「……」

 俺はなにも答えない。田辺先生は困ったように笑った。





「少し、先生とお話しようか……君、席を外してくれるかな」





「分かりました」





 看護師を外に追い出すと、田辺先生は俺の方に向き直る。俺は田辺先生をきつく睨みつけた。