「よかったね、蓮! 一番だって!」
背後から聞こえた歓声に、俺は驚き振り返る。そこには、無愛想な表情を浮かべた男が立っていた。
俺の視線に気がつかない奴は、言った。
「これくらいどうってことないよ、母さん」
その瞬間、俺の中でなにかが崩れた。
どうってことない? もっと喜べよ。そうでなきゃ、一生懸命に努力した「負け組」の立場がなくなるだろ。お前のせいで、俺の人生めちゃくちゃだ。
両親の期待に応えることができなかった。その先に待ち受けている現実に、俺は震えた。
偽りの愛情を注がれ育った。俺は気がついていた。両親が愛しているのは俺自身ではない。俺の「頭脳」だ。負け組に用はない。
「櫻井……蓮か」
この名前は一生忘れない。いつか必ず復讐してやる。
俺は血が滲むほど強く唇を噛み締め、発表会場を後にした。
帰宅した俺を待っていたのは厳しい現実。結果を知った母親は、変貌した。
「アナタに期待し続けたママが悪かったわ。部屋に戻りなさい。アナタみたいな負け犬の顔、見たくないのよ」
分かっていた。これが現実だ。優しかった家族はもういない。全て、張り詰められた糸の上の出来事だったのだ。これは、糸が切れた結末に過ぎない。
幼かった俺には、その現実が受け入れられなかった。
愛されていなかったとしても、今だけは慰めてほしかった。その願いは叶わず、かけられる言葉は残酷なものだった。
地獄。本当にそう思った。そんな生活が続き、心には必然のようにある願いが生まれた。
「……死にたい」