「それともう一つ。これからは蓮くんの分も私が笑うからね」
彼女の言葉に僕は首を傾げる。
「え?」
「アナタは全然笑わない人だから、私が蓮くんの分も笑うって言ってるの」
途端に真剣な表情になった鈴葉。彼女に返答することもできず、僕は苦し紛れの言葉を絞り出す。
「まあ、色々あってさ」
「そっか」
僕の返答に彼女はそれ以上の詮索せんさくを止めた。
それが不思議でならなかった。本来なら、他人の秘密や不審な点を根掘り葉掘り聞き出したくなるのが女の性さがだと僕は思っていた。人間ならある程度の詮索はするだろう。
けれども彼女は理由を突き止めようとはしなかった。第一印象で感じた印象は、あながち間違いではなかったのかもしれない。
「聞かないのか、理由」
僕が尋ねると、すぐに返答があった。
「聞いてほしいの?」
思わず言葉に詰まる。
「いや、別に」
「話したくないんでしょう? なら、聞かないよ」
彼女の言葉に、僕は呆れさえも感じていた。
協調性が欠けている、という面では相性が良さそうだ。
「君、変わってるな」
溜息混じりの言葉に彼女はニコリと微笑んだ。
「そう? ありがと」
「いやいや、褒めてないし」
つくり笑いができないというのは案外ツラい。感情の表現方法を削られるという点で、僕のコミュニケーションに支障をきたす。
もどかしくなり、自分の焦りを隠すように髪の毛をくしゃくしゃと掻き乱した。