神谷陸。十二歳。中学受験を控えた小学六年生。明日、運命の受験日を控えている。

 この日のため、どんなに努力を重ねてきたことだろう。

 貧しい神谷家に偶然生まれた秀才に、家族全員が期待していた。





「明日の受験がアナタの未来を決めるのよ。アナタは特別なんだから、常に一位でいなくちゃいけないの」





「うん、分かってるよ」





 貧しい家族を助けるため、将来は医者になると決めていた。

 小さな頃から将来を決められていた俺は、親に逆らうことを知らなかった。従うこと以外、生きる術を知らなかった。

 それでも俺は両親の期待に応えようと必死に頑張った。

 生活費を削り、学費を捻出してくれた両親。

 見返りを求められているのは感じていた。俺の存在価値は、金稼ぎの道具なのだと本気で信じていた。それでも俺は両親のことが大好きだった。



 俺なら大丈夫。敷かれたレールの上をまっすぐに歩くことができる。



 迎えた合格発表の日。あの頃は珍しく合格者の名前と順位が発表されていた。のちにその手法は保護者からの苦情があり、なくなったらしい。

 俺の順位は決まっている。これからも明るい道を独走するのだ。そう思っていた俺は壁に貼られた合格発表に目を向け、言葉を失った。





「……嘘、だろ」





 俺は合格した。二位だった。何度確かめても結果は変わらない。地の底に突き落とされた気分だった。

 俺は虚ろな目を一位の名前に向ける。そこで初めて櫻井蓮と会った。