「正直、俺はお前の彼女なんてどうでもいいんだよ」





「は?」





「この際だから言っておく。俺の目的はお前だよ、櫻井蓮」





「なにを……言って」





「お前は俺の存在なんて知らないだろうな。ムカつく」





 神谷は苛立ちを露にする。動揺する僕の姿を見ると、その表情は一変した。口角を吊り上げ、歪んだ笑顔を見せる。





「お前の澄ました顔が歪む瞬間が見たいんだ。完璧な人間が崩れる姿は最高に笑えるからな」





「なにをするつもりだ」





「俺はなんでも利用するぜ? お前に復讐するためなら、どんなことだってする」





 神谷と今まで面識はなく、どんな経緯で怨みを持たれたのか分からない。

 手段は選ばないという神谷に、僕は恐怖を感じた。





「手始めとして、お前の大切な人を奪ってやろうと思って。覚悟しろ」





 そう言い残し、神谷は去った。

 僕は放心状態になり、倒れ込むように近くのベンチに腰を下ろした。

 海愛を信じている。それなのに、少なからず疑う自分がいた。



 海愛が神谷を選んでしまったら、僕はどうするのだろう。生きる希望を失った僕は、また昔のように自暴自棄になってしまうのだろうか。



 人の気持ちはある日突然変わってしまう。

 僕は去っていく海愛を繋ぎ止める手段を知らない。

 次々にあふれ出す最悪の結末を想像し、僕は両手で顔を覆い、大きな溜息をついた。