「海愛だって? おい、笑えない冗談はやめろよ、神谷」





 動揺する心を見せまいと平静を装いながら僕は神谷を睨みつける。





「これ、海愛ちゃんのアドレスだろ」





 携帯画面に記されていたのは紛れもなく海愛のアドレスだった。状況が理解できない僕に対し、神谷は続けた。





「俺、海愛ちゃんと連絡取り合ってるんだ。彼女、寂しがってたぜ? 蓮が私を見てくれないって」





「お前……」





 僕は衝動のまま神谷に掴みかかる。

 僕の行動に神谷は笑い、口にしていた煙草の火を足で踏みにじり消した。





「おっと、彼女を責めないでやってくれよ?」





「お前には関係ないだろ」





「櫻井……どうしてこうなったのか、自分で分かってる?」





 首を傾げる僕に神谷は呆れたように言った。





「言ったろ。お前は海愛ちゃんを縛りつけてるだけだって。本当に信頼し合ってるなら、どうしてお前でなく俺なんかに相談してくるんだよ」





 返す言葉が見つからない。

 海愛が神谷を頼ったのは紛れもない事実だ。

 その原因は僕にある。だからこそ、僕は海愛を責めることも、神谷に強く反論することもできなかった。

 神谷は僕に掴まれた腕を振り払う。