「この傷が気になる? こんな場所だし、よく気を使われるんだけどね、これ、うちの猫にやられたんだ」
笑いながら説明する神谷さん。
「猫飼ってるの?」
「うん。三毛猫」
「そっか、なんかごめんね」
「いや、いいよ。今度よかったら猫、見に来て」
「うん、ありがとう」
笑顔を見せる神谷さんに私はようやく穏やかな表情を見せた。お詫びの印に、と神谷さんがくれた缶珈琲を手にしながら、私はそれからしばらく校舎の片隅で彼と話をした。
出会いこそ最悪だったが、神谷さんは話をすれば親身に相談に乗ってくれ、言いたいことも、思っていたことも私と似ていた。そんな彼に私が心を許すまで、時間は必要なかった。
お互いの悩みを打ち明ける。ただそれだけの関係だった。