「会った。頭も良くて、こんな可愛い彼女もいる。あいつ見てたら嫉妬してる自分がなんだかすごく馬鹿らしくなったよ」
「神谷さん……」
「だから、本当にごめんね。海愛ちゃん、これからは友人として仲良くしてくれるかな」
そっと差し出された和解の手に、私は戸惑いを露にした。神谷さんは表情を変えぬまま、私が答えを出すのをじっと待っている。
神谷さんが蓮に嫉妬する気持ちが私には少しだけ分かる気がした。
不謹慎だということは自分でも嫌というほど分かっていたが、私は当初、蓮の苦しみを心から理解できる立場にいた莎奈匯さんが羨ましくて仕方がなかった。しかし、そんな莎奈匯さんが絶対に手に入れることができないものを、私は持っている。心の奥で優越感を感じている自分が惨めで醜い人間に見えてしまい、何度も泣いた。
私は導かれるまま、神谷さんの手を取った。
「私にも、その気持ちは少しだけ分かります」
私の出した答えに、神谷さんは満面の笑みを見せた。
「よかった……あ、安心してね。俺、フラれて未練とかないから!」
必死に説明する神谷さんの姿に、私は思わず吹き出してしまった。
「本当に?」
「本当、本当! ……多分」
「なんですか、多分って」
慌てふためく神谷さんの姿が途端に幼い男の子のように見えて、私はクスリと微笑んだ。
慌てて両手を振りながら自分の発言を誤魔化す神谷さん。
そこで私は神谷さんの腕に傷痕きずあとがあることに気がついた。まるで鋭い刃物で傷をつけたかのような手首の痕。触れてはいけない問題だと感じた私は咄嗟に目を逸らした。私の視線を感じた神谷さんは諦めたように言った。