「まあ、せいぜい足掻けばいい。今日はそれを伝えに来ただけだから」
「……」
「あ、ほら。ちょうど彼女が迎えに来たみたいだぜ?じゃ、またな」
神谷は遠くから走ってくる海愛を指差し、僕の肩を叩くと、そのまま去って行った。神谷の姿が学生たちの中に溶け込んだ後、息を切らした海愛がかけ寄ってきた。
「蓮! ここにいたのね! ……はあ、疲れた。探したんだよ?」
「ああ、悪いな」
海愛の目をまともに見れない。うつむいたままの僕に気づき、海愛は不思議そうに首を傾げた。
「蓮、どうしたの? 顔色悪いよ?」
心配そうに顔を覗き込みながら海愛はそっと僕の額に触れた。僕は唇を噛み締めながら、精一杯の笑顔を作り、海愛の手を取り優しく声をかける。
「大丈夫。少し眩暈がしただけだから。帰ろうか」
差し伸べられた手を海愛は恐る恐る取った。
「本当に、大丈夫?」
顔色の悪い僕を心配そうに見つめる海愛。
またこうして弱みにつけ入る悪い僕。
そんな醜い感情を隠しながら、僕は海愛に優しく言った。
「大丈夫。本当にたいしたことないから」
そう言ったものの、僕の心は冷たく落ち込んでいた。これでは神谷の思うツボだ。頭では分かっているのに、彼に見透かされた心が鉛のように重くのしかかり、僕は海愛と顔を合わせることができないままでいた。