しばらくの沈黙。

 言葉足らずだったのか、彼女は不安そうに僕への言葉を選んでいた。チラチラとこちらをうかがう様子は、気を使わせてしまっている証拠。沈黙の間も彼女の焦りは真横で感じられる。

 堪えきれなくなり、僕は沈黙を破った。





「やることが突然過ぎるんだ、あいつは」





 少し大袈裟おおげさに溜息をつくと、ようやく緊張の糸が切れたのであろう彼女の笑い声が聞こえた。





「智淮もね! あの二人はバカップルだから」





「僕もそう思った」





「初めて蓮くんと意見が合ったね」





 他愛のない会話。それでも彼女はとても楽しそうに笑っていた。

 初対面の印象は、変わった子。今の印象は、よく笑う子。





「鈴葉さんはよく笑うね」





 僕の言葉に彼女は先ほどまでの笑顔を曇らせる。

 なにかまずいことを言ってしまったかと考えていると、彼女は予想外のことを口にした。





「鈴葉さん、なんて……私が蓮くんって呼んでるのに変じゃない?」





「変かな?」





「海愛でいいよ。それがダメならせめて鈴葉。対等でいたいから」





 僕は、彼女にどんな返事をすればいいのか迷っていた。少し考えて、戸惑いながら答えた。





「じゃあ、鈴葉で」





「しょうがない、ぎりぎり認めよう!」





 鈴葉は途端にまた花のような笑顔を見せる。表情豊かな彼女に僕は惹きつけられていた。