「それは彼女がそうなるように、そうならなければいけないようにお前がしてただけだ」





「違う」





 なにを言っているんだ。海愛は今でも変わらず僕を愛してる。それなのに、お前はなにを言っているんだ。



 動揺する僕に神谷は鋭い視線を向ける。





「違う? 違わない。お前は、海愛ちゃんを自分に縛りつけているだけだ」





 神谷の言葉に僕は言葉を失う。心の中が黒いなにかで埋め尽くされていく。

 返す言葉が見つからない。今まで逃げてきた現実が急に目の前に立ち塞がり、目の前が真っ暗になった。



 海愛を愛している。それは僕個人の感情に過ぎず、本当の気持ちは海愛自身にしか分からない。健康で器量もよく、明るくおしとやかな海愛に憧れを抱く男は沢山いた。不安がなかったと言えばそれは真っ赤な嘘だ。僕は海愛に支えられ、これまでの人生を歩んできた。真っ暗だった一本道を照らす太陽に出会い、道を違えず歩いて来ることができた。海愛は僕にとって、なにものにも代えがたい心の支えだった。



 絶対に手放したくない。



 思えば、短命という課せられたリスクを利用していたのかもしれない。弱った、助けを求める人間を海愛は見捨てることができないから。

 そんな海愛の弱みにつけこんで、彼女が離れていかないように振る舞っていた。人の温かさを知ってしまった僕は、もう孤独だった頃の自分に戻ることはできない。

 神谷の言っていることに間違いはない。だからなにも言えなかった。