「なにが言いたい?」
声に苛立った感情がそのまま出る。僕の視線に気がついた神谷は、わざとらしく大きな声を上げて笑った。
「いや、別に。ただ、なにも分かってないんだなって思っただけ」
「は?」
「お前、海愛ちゃんとマジな喧嘩したことある?」
神谷の質問に僕は答えることができなかった。
ない。
それが答えだ。
神谷は勝ち誇ったような笑顔を浮かべていた。
「ないんだな」
「そ、それは! 「仲良しカップルだから? 相思相愛だから喧嘩なんてありえない?」
心を見透かされたような感覚に、僕は言葉を失った。
海愛は僕を愛してくれている。小さな体で、懸命に支えてくれる。その気持ちに見合うように、僕も海愛に精一杯の愛情を注いでいる。だからきっと、この先なにがあっても大丈夫だ。そう思っていた。
神谷は立ち尽くす僕を見つめ、ベンチから立ち上がり、僕との間合いを詰める。
「お前、自分が彼女を愛してるから、当然彼女も自分を愛してるだろう、とか思ってる?」
心を読まれる、という感覚は、あまり気持ちのいいものではない。