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講義終了後、僕は窓際に座っていた神谷に声をかけられた。話の続きがしたい、という神谷に連れられてやってきたのは資料室近くにある自動販売機の裏だった。神谷は備えつけのベンチに腰を下ろし、言った。
「さて、じゃあ今朝の続きをしよう。宣言したように、俺はお前から海愛ちゃんを奪う」
口角を上げ、神谷は余裕の笑みを見せる。僕は心の中の黒い靄もやを抱えたまま、なにも言えない。
そんな僕に神谷は眉を下げ、「やれやれ」と口を開いた。
「お前の口からしっかりと聞きたくてさ。お前は彼女とつき合って何年になる?」
神谷の質問に僕は一文字に結んでいた口を開いた。
海愛と出会ったのは全てを諦めていた高校三年生の初夏。それからあっという間に月日は経ち、僕は今年で大学三年生。二十一歳の誕生日を迎えようとしていた。
「今年で四年になる」
二度目の余命宣告を潜り抜け、僕は懸命に生きていた。
「じゃあ聞くけど、お前は海愛ちゃんのこと、しっかり見てるか?」
神谷の言葉に僕は首を傾げた。質問の意図が分からない。海愛のことなら今までずっと一途に見つめてきた。分からないことなどあるはずがない。
「見てるよ」
「本当に?」
神谷は乱れた前髪を掻き分けながら笑う。
僕はベンチに座る神谷を見下ろしながら、眉間に皺を寄せた。