*   *   *







「肺の……は……血管の……」





 教授の話が耳に入らず、僕は苛立ちを隠すようにペンをくるくる回す。

 今回の講義の内容は教科書を見ればだいたい理解できた。

 僕は先ほどの神谷陸とのやりとりを思い出し、溜息をついた。

 あんなやつに海愛を奪われてたまるか。





「どうしよう」





 今まで海愛を誰かに奪われてしまうなんて考えたこともなかった。



 海愛には僕がいる。海愛が他の男を選ぶことなどありえない。



 そんな甘い考えで過ごしてきた日々が、ある日突然大きく変わる。

 不安定な心のまま、僕は机に突っ伏してしまった。