僕は講義に出席するために大学を訪れた。沢山の生徒が行き来する門を潜ったところで僕はとある人物に声をかけられた。





「やあ! 櫻井蓮だよな? 医学部の秀才くんは、オーラが違いますねえ」





 細身の体型で笑う青年。その顔は嫌でも覚えている。





「神谷陸」





「名前を覚えてくれていたなんて、光栄だな」





 神谷は笑顔を振りまきながら僕の姿をジロリと見る。鋭い視線に違和感を覚え、あとずさる。

 神谷は言った。





「今日はお前に宣戦布告をしようと思って」





「は?」





 神谷の言葉に僕は首を傾げる。

 門を潜ってすぐのところにある掲示板の片隅で、僕と神谷は対峙していた。授業が迫った生徒たちは単位を落とすまいと足早に過ぎ去っていく。同様に時間を気にする僕の姿に神谷は溜息をついた。





「海愛ちゃん、俺がもらうから」





「ふざけるな!」





 神谷の言葉に僕は思わず大きな声を発する。一斉に僕へ視線が集まる。



 宣戦布告だって? 今度は海愛になにをしようとしているんだ?



 得体の知れない相手に、僕は恐怖を覚えた。

 直接会って話したのは今日が初めてだが、初対面の人間にこんなに嫌悪感を抱いたことはない。見下したような顔が嫌悪感を倍増させる。

 集まってしまった学生たちの視線を気にしながら、神谷は言った。





「まあ、ここは人目がある。俺もお前と同じ医学部だし、今日の講義は一緒だろ? 続きは授業が終わってからにしよう」





「ちょ、待てよ!」





 神谷は僕の呼びかけに振り返ることもせず、まっすぐ背を向け歩き出す。神谷が人混みに紛れ見えなくなると、僕の体に倦怠感が重くのしかかる。

 嵐の前の静けさか、すがすがしい青空が広がっていた。