* * *
夜道、私は携帯を見つめながら言った。
「神谷さん、私もう帰りますね」
帰ろうとする私の手首を掴み、神谷さんは笑顔を見せた。
「えーまだいいじゃん」
力が強く、掴まれた腕を振り解くことができない。私は苛立ちを抑えながら、精一杯の笑顔を作る。
「ほら、もう遅いし……」
「海愛ちゃん、今日は泊まっていかない?」
「いやいや、私、彼氏いるんで」
話を全く聞く気のない神谷さんに私は大きな溜息をついた。
「大丈夫だよ……だって海愛ちゃんの彼氏、俺と二人きりだって知ってて今日来ること許してくれたんだろ?」
「それは、神谷さんが蓮の話を聞きたいって言っていたから……」
私の言葉に神谷さんはクスリと笑った。
「海愛ちゃん。君は無防備過ぎるんだよ」
腰に回された手の感触に嫌悪を示す。
「君のことなんて、本当はどうでもいいのかもしれないよ」
いい加減にしてほしい。
私は堪えきれなくなり、眉間に皺を寄せ、声を荒げた。