「……鈴葉、海愛さん?」
「蓮くん……どうして」
視界に飛び込んできたのは、あの日、僕の傷ついた拳を手当てしてくれた女の子だった。
どうして気がつかなかったのだろう。遠目でも分かったはずなのに。
通常ありえないという先入観が僕からあの日の記憶を遠ざけていた。
僕は、鈴葉海愛さんと再会した。
「え、なに? 知り合いだったの?」
事態を把握していない那音と智淮さんは首を傾げる。途端に慌て出したのは鈴葉さんだ。
「あ、う、うん! ね?」
同意を求められるまま、僕は反射的に首を縦に振る。那音の表情が途端に明るくなった。
「蓮……お前、やるな。見直した」
心底楽しそうに笑う那音に、怒りが芽生えそうになった。
「勘違いするなよ、知り合いってだけだ」
「まだ、知り合いだろ? お邪魔しちゃ悪いからな! 智淮、行くぞ」
奴の頭の中に勉強という本来の目的は残っていないようだった。
なにを言っても無駄だ。
そう判断した僕は反論を止めた。
「ちょっと那音?」
事態がのみ込めない智淮さんは突然引かれた右手に戸惑いを隠せないようだった。
「デートしよう」
「え、今から? 今日は勉強するって……」
「あっちもいい感じみたいだし。オレらが邪魔しちゃ悪いじゃん? 智淮はオレとデートするの、嫌?」
戸惑う智淮さんの顔を覗き込むように、那音は尋ねる。
那音がモテる理由が僕にもなんとなく理解できた気がした。
智淮さんは那音との距離に顔を赤らめながら、先ほどとは全く別の声色で呟いた。
「……嫌じゃない。行く」
「よし、いい子だ。じゃ、そういうことだから! 今日はここから別行動な! また学校で会おうぜ!」
仲良く手を繋ぎながら遠ざかっていくカップルの背中を見つめ、残された僕と鈴葉さんはその場で呆然ぼうぜんと立ち尽くしていた。
破天荒はてんこうな那音の行動に、思わず僕の口から溜息がこぼれる。僕の隣で堪えられずに笑い出した彼女。
「なんか蓮くん、この前と雰囲気違うね。驚いちゃった!」
僕は自分に向けられた花のような笑顔を直視することができずに視線を逸らした。
「まぁな」